秋まき小麦日本人の主食である「米」と「小麦」は、自給率の高い「米」の消費量が年々減少する傾向の中、「小麦」の消費量は50年間、ほぼ横ばいとなっていますが、平成23年に、日本の一世帯あたりのパンの購入金額が、「米」の購入金額を上回ったことが話題となりました。しかし、小麦の殆どは海外からの輸入に依存し、自給率は残念ながらかなり低いと言わざるをえません。回復傾向にあるとはいえ、その実績はまだまだであるのが現状です。

一時は約4%台まで低下して風前の灯であった国産小麦は、水田の転作作物として生産量を徐々に回復し、生産振興が図られるようになりますが、その自給率はまだ10%台です。

更に自給率を上げるにはマーケットのニーズ、つまり、かつての「うどん」や「まんじゅう」等に使われていた国産小麦を、さらに原材料の用途をパンや麺に広げていかなければなりません。しかしながら、問題は、これまでの「新品種開発」が滞っていたという状況の中で、国産小麦は輸入小麦に品質が大きく見劣りするということでした。

そこで農林水産省は、国産小麦の品種改良に向け、北海道農業試験場で、これまでは「常識的に不可能」とされていた「秋まき」のパン用小麦品種を開発するというプロジェクトを昭和60年頃に開始しました。パン用小麦といえば、パンのふくらみのもとになる「グルテン」というたんぱく質を多く含む「春まき」の小麦を使うのが常識でした。

しかし、「春まき」の欠点は生産量が不安定になるということで、プロジェクトは「安定した生産量の確保」と「パン用小麦としての品質向上」という二つの問題解決のため、「不可能」とされていた「秋まき」のパン用小麦新種開発に挑戦したのです。

プロジェクトは当然ながら、試行錯誤の連続で、ハンガリー産の小麦と国産小麦の品種交配により、何とか「キタノカオリ」の品種開発に辿り着きます。「キタノカオリ」はしっとりとした甘みのあるパンが作れるため、今でも根強い人気があります。しかし、収穫できる時期が遅く、収穫期の雨や低温に影響されやすく、生産者にとっては作り難いという欠点がありました。

プロジェクトは「秋まき」のパン用小麦という不可能を可能にしましたが、まだまだ「安定して生産できる」という大きな目標に向かって試行錯誤を続けなければなりませんでした。(つづく)

【資料提供】
農研機構 九州沖縄農業研究センター 主任研究員 西尾善太
(前農研機構 北海道農業研究センター 主任研究員)

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