北海道の「秋まき」のパン用品種の第1号として、ハンガリー産のパン用小麦種と北海道の品種を、昭和63年に交配し、その成果は平成15年に「キタノカオリ」として実を結びます。「秋まき」のパン用小麦という、これまでの不可能を克服したプロジェクトには更に、「安定して生産できる」品種の開発が目標として残っています。

この「キタノカオリ」を親として、再び、今度は米国産のパン用品種と交配させます。この米国産の小麦は、パン用小麦の本場であるカンザス州の大学で育成された品種で、良質の「グルテン」を多く含み、パン用小麦としては素晴らしい適性を持つという長所があります。また、北海道のみならず、全国的に大きな問題となっていた「小麦萎縮病」という、土壌伝染ウイルス病に対する優れた抵抗性を持っていました。
しかし、草丈が高く、肥料を増やすと倒れやすいという欠点があります。

一方、「キタノカオリ」は成熟期が遅く、雨に弱いという欠点がありますが、茎が太くて草丈が低いので、肥料を増やしても倒れにくく収穫量が多いという長所を持っています。

この両者の長所を引き継ぐ新品種の小麦が生まれれば、プロジェクトの目標であった「安定した生産量の確保」と「パン用小麦としての品質向上」が達成できます。

そして、そのプロジェクトの試行錯誤が遂に実を結びます。二つの小麦の長所を見事に引継いだその新品種の名前は「ゆめちから」。幸運にも「小麦萎縮病」に対する優れた抵抗性も受け継ぎました。下の画像の左側は「小麦萎縮病」の小麦、右側はウイルスに強い健全に生育した「ゆめちから」です。

日本の麦 この「ゆめちから」は通常の「強力小麦」よりも、弾力の強い「グルテン」を多く含み、通常の「強力小麦」と分けて「超強力小麦」という名前で呼ばれています。「ゆめちから」単独でパンを作るよりも、グルテンが柔らかくて少なめの「中力小麦」をブレンドしてパンを作る方が品質の優れたパンを作れるほどに、輸入小麦に匹敵する新品種として生まれました。

「秋まき」の新品種、「ゆめちから」の登場は、これまでの国産小麦に対するイメージを変える新品種として期待され、大手製パンメーカー新製品が次々に発売されています。これは、長く取り組まれた、国産小麦新品種開発プロジェクトの大きな成果です。

【資料提供】
農研機構 九州沖縄農業研究センター 主任研究員 西尾善太
(前農研機構 北海道農業研究センター 主任研究員)

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